帰れない駅

帰れない駅

この季節を一度君は体験した気がした。

それは確かランドセルを背負っていたときのことのような気もするし、セーラーブレザーに袖を通していたときのことだったような気もする。それとも、サークルの飲み会で酔っぱらった後の帰り道? 晴れているのに不思議と肌寒くて、雲一つない青空が白んで見える。日陰に入らなくとも、直射日光が遠くに感じられる。(半袖なのにな)半袖だからかもしれないね。

「あの、ここはどこですか?」

知らない女の子が君に問いかける。君はとっても驚いて、物一つ言えなかった。目をぱちくりさせて、彼女を見つめたまま。

彼女はそんな君を不審そうに見つめて、緊張で身体が強張っているみたいだ。

「あの…、聞こえてますか…?」

はっ、と我に返った君は慌てて口を開く。「聞こえていますよ」君の返答に安心したらしい。彼女は少しほっとした様子で、勝手に話し出す。

「ここの駅、はじめて降りたんですけど、友達と待ち合わせるために電話してたら、急につながらなくなっちゃって…。駅の南口と表口がわからなくてうろうろしてたら、全然マップも繋げなくなっちゃって…。表口のセブンと焼き鳥屋のとこまで行きたいんですけど」

「そうなんだ。ここは裏口だよ」

「あ、やっぱり! さっき高架下の道をくぐったときに反対に来ちゃったんですね」

「ああ、あの高架をくぐれたんだ」

「はい! 高架くぐったら人が全然いなかったから、やっぱりさっきの場所が表口の方面だと思ったんですけど、引き返すのもなんか悔しくて!」

君の柔和な雰囲気のせいと、もともとの彼女の性格なのだろう。見知らぬモノどうしだというのに、彼女の会話はやけに弾んでいた。君は嬉しくなって、彼女に微笑みかける。

「案内するよ」

君は嬉しかった。

「南口ってほんとに人がいないんですね」

時折電波を探すようにスマホを掲げて、彼女は君に話しかける。ぎりぎり待ち合わせの時間に間に合うと安心したらしい。(ね)そして君のことが同年代に見えているんだろう。よく喋る。

「表口はたくさんヒトがいるよね」

「ですよね。でも、改札抜けたときはけっこう南口に行く人も多かったのに…バスターミナルがそっちだからかな?」

君は何も答えなかった。

「おなかすいたね」

「え! 私チョコありますよ! 食べますか? 道案内のお礼に」

「ううん。大丈夫」

君はもう少しでお腹が満たされることを知っていたので、チョこは貰わなかった。遠りョしたのサ。(そうだ)ちヨコなんて食べないんだもの。

君は久々にこの季節に帰ってきた気がした。

秋の優しい風が吹く。冬の訪れを感じるけれど、夏の暑さに辟易していたころに比べればずっと過ごしやすい。半袖でも十分過ごせそうだ。それに、久々に着替えることができる。服を買うことだってできる。

君は弾む思いだった。サークルの小旅行は結局どうなったのだろう。

満たされた君は裏口を抜け、駅の表口にたっていた。セブンと焼き鳥屋まで歩こうかと思ったけど、やめた。君はもらっタICカードで改札を抜ける。そこを出ていく。

駅のホームのむこうガワを見た。絶望した表情のあの子が、線路とむこウを隔てるフェンスにしがみついて何かを叫んでいる。君は笑顔で手を振った。隣の乗客が訝し気に君を見たが、君はどうでもよかった。

君は嬉しかった。